HACCP(ハサップ)導入のメリット・デメリット。事業者にどんな利点がある?

HACCP(ハサップ)導入のメリット・デメリット

「今までの工程をいちいち記録する必要があるの?」
「HACCPは手間がかかって大変だけど、それなりのメリットがあるの?」
「HACCP導入のデメリットは?」
2020年6月に導入が義務化されたHACCP。食品を取り扱う事業者の中には、HACCPの導入にあたって多くの疑問を抱く方が多いのではないかと思います。

HACCPを導入したものの、事業者にとってどんなメリットがあるのか分からないという方も多いのではないでしょうか?
実はHACCPは、消費者はもちろん、事業者にも大きなメリットがある重要な衛生管理です。

この記事では、長年フードコンサルタントとして食品に係わるさまざまな事業者に衛生環境改善・衛生指導を行ってきたHACCP先生が、HACCP導入の6つのメリットについて解説。
この記事を読むと、HACCP導入のメリットとデメリットついて一通り学べるように構成しました。

・HACCP導入の6つのメリット
・HACCP導入のデメリット
・HACCP導入の必要性と今後の課題

上記の内容を具体的に解説していきます。
それでは、HACCP導入のメリットデメリットについてみていきましょう。

HACCP導入の6つのメリット

HACCPには、事業者にとって大きく6つのメリットがあります。それぞれ詳しくみていきましょう。

メリット①食品の安心安全

皆さんご存知の通り、HACCPの最大の目的は、食の安心安全です。
HACCPは、食品事故が起こってしまわぬよう、食品の調理から提供までのプロセスを明確にし見える化・記録することで食品事故の原因となるポイントを予め分析し、対処まで行います。

一方、従来の衛生管理は、検食と拭き取り検査を行っていました。検食は、「何か問題が起こってしまった場合」の原因を突き止めるための検査であり、検査を行う時点で既に問題が発生してしまっている状態です。

拭き取り検査は、調理器具や人の手指の細菌の数をチェックすることで危険を察知できますが、結果が出るまで24時間以上かかります。
その間、危険の可能性がある食品を流通させないようにできますが、それまでは流通を止めることになります。
また、拭き取り検査は毎日行われているものではなく多い事業者でも月1回~であるため、異常を発見するのに時間がかかってしまうことがデメリットでした。

HACCPでは、起こってしまった事故の原因究明をする従来の衛生管理とは異なり、事故の原因となるポイントを予め潰すことで、食品事故を防ぎ、食品の安心安全を確保するための衛生管理なのです。

メリット②従業員の衛生対する意識向上

HACCPには、HACCPの考え方を取り入れた衛生計画書の作成が必要であるため、今までの衛生管理を見直すきっかけになります。
食品の安全に係わる衛生管理でも、毎日行っているとどうしても無意識で管理してたり、「面倒だから」と手を抜いてしまいがち。
衛生管理計画書を作成することで、無意識になった衛生管理に再度向き合い、食品衛生に対する意識を向上させることができます。

また、HACCPの衛生管理では、各ポジションの従業員が、その製造工程に必要な衛生管理を行い、記録します。
記録だけでなく、必要に応じて衛生計画を変更して日々改善していくため、管理・記録・改善を通して従業員それぞれが責任を持って衛生管理に取り組むようになります。

メリット③ルールの明確化による教育の平準化

HACCP導入により、今までの衛生計画を見直し、新たな衛生管理のルールが明確になることで、従業員への教育を均等に行うことができます。

今までの衛生管理では、衛生管理のルールが明確になっていないことで「人によってやり方が違う」ということも少なくありません。従業員それぞれが「やりやすい方法」で衛生管理を行ってしまうため、安全性の低い衛生管理になってしまいます。

しかし、HACCP導入してルールを明確にし、ルール通りの教育を従業員全員に行うことで食品の安全性を維持することができます。

メリット④作業効率アップが期待できる

HACCP導入の際、危害要因分析に必要なのがフローダイアグラム(作業工程図)の作成です。フローダイアグラムは、食品製造における各工程を順番に並べ、図として見える化することで危害要因分析の情報として活用します。
それと同時に、作業工程の見直しにも役立てることができます。

例えば、とあるセントラルキッチンでは、
「オーダーに合わせて仕分け→パック→殺菌加熱→冷却→配送」の工程で製造していました。
ここでの「殺菌加熱」は、食品の調理後の冷却が不十分でないことが原因で、念のために殺菌加熱をしていたそうです。
それによって午前中は殺菌加熱と冷却に必要な機器が使用できず、無駄な工程が発生していたのです。
ここでフローダイアグラムで作業工程を見直し、配送前の「殺菌加熱」をなくすことで、調理後の冷却に必要な機器と時間を確保できます。

HACCPを導入することで、作業工程を見直し、製造工程を最適化することで食品安全にも作業効率アップにも繋げることができるのです。

メリット⑤事故を未然に防ぐ

HACCPは、食品事故の原因となるポイントを予測し・対処することが目的のため、食品事故を未然に防ぐことも大きなメリットです。
毎日の記録を取ることで、事故に繋がりうる少しの変化に気付くことができます。

例えば、中心温度の変化や冷却時の温度の温度のムラなど細かい食品品質の変化から、冷蔵庫やオーブン、金属探知機などの機器の不具合などの原因を突き止めることができ、被害が拡大する前に事故を未然に防ぎます。

メリット⑥もしもの時の自己防衛

もしも食品事故が発生してしまった場合、HACCPを導入していると自己防衛に繋がります。。
食品事故が発覚すると、保健所は原因究明の調査を実施。
その際、HACCPによる適切な衛生管理がなされている場合、業務・営業停止処分の日数など、処分が軽減することができます。

HACCP導入のデメリット

HACCPには、メリットだけでなくでデメリットも存在します。
事業者にとっての3つのデメリットについてみていきましょう。

デメリット①手間がかかる

HACCP導入の一番のデメリットは、手間がかかることです。
HACCP導入には、フローダイアグラムの作成や危害要因分析によるHACCPの考え方を取り入れた衛生計画書の作成、日々の衛生管理と記録など、多くの手間が発生します。

危害要因分析によって、事故発生につながるような工程があると是正処置として新しい工程を考える必要もあるため、さらに大きな手間が増える可能性も。
HACCPの導入には、大きな手間が発生することは避けられません。

デメリット②費用がかかる場合も

HACCP導入の際、場合によっては設備投資が必要になる可能性があります。
ほとんどの場合は、特に費用をかけることなくHACCPの導入が可能ですが、事業者によっては、必要な設備を揃えるための費用が発生。
HACCP義務化前の中小企業のHACCP導入率が低いのも、設備投資資金が足りないことが大きな原因でした。

現在では、HACCP支援法が改正され、日本政策金融公庫から低金利融資を受けれるようになったことで、中小企業もHACCP導入をしやすい環境が整っています。

デメリット③全てを防げるわけではない

HACCPを導入したからといって、全ての食品事故を防げるわけではありません。
HACCPはあくまで「食品の安全性を高める」ための管理方法です。人間が運用・管理しているため、完全に不備がない状態は難しく、食中毒や異物混入をはじめとした食品事故を完全に防ぐことはできません。

しかし、食品を取り扱う事業者全体としては、従来の衛生管理と比較して大きく衛生管理レベルを上げることができるのも事実。
全てを防げるわけではありませんが、衛生管理レベルが上がることで、結果として食品事故を減らすことに繋げることができます。

まとめ

2020年6月に導入が義務化されたHACCP。
HACCP導入には6つのメリットがあり、衛生管理レベルを底上げするほか、作業効率や従業員教育など今までのやり方を見直すきっかけにも繋がる重要な役割を担っています。

もちろん、導入には多くの手間がかかり、それでいて全ての食品事故をなくせるわけではありません。しかし、日々管理・記録・改善を繰り返していくことで、事業所全体で衛生管理の意識が高まり、結果として食品事故ゼロに繋がるのではないでしょうか。

今回の記事を参考に、HACCPにおける衛生管理に再度向きあい、更なる衛生管理レベルの向上などのメリットの最大化を図りましょう。

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